iPS細胞の応用

気管覆う細胞5種類の効率作製に成功 京大大学院
毎日新聞2015年12月25日 02時00分(最終更新 12月25日02時22分) 

京都大大学院の三嶋理晃教授(呼吸器内科学)らの研究グループは、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、肺に異物や病原体などが進入することを防ぐ繊毛などになる5種類の「気道上皮細胞」を、効率的に作り出す方法を世界で初めて確立したと発表した。研究成果は米科学誌「ステムセル・リポーツ」電子版で24日正午(米東部時間)に公開された。

気管を覆う気道上皮細胞は、粘液の分泌と繊毛の振動運動で異物を体外へ除去する機能を果たす。この細胞の遺伝子に異常のある原発性繊毛機能不全症(小児慢性特定疾患)や嚢胞(のうほう)性線維症(難病)などの患者は、この機能が不十分なため感染症などを繰り返す。

研究グループは、iPS細胞を分化させる過程で、気道上皮細胞となる細胞だけを取り出し、実際の体内環境に近い三次元で培養。繊毛となる細胞や粘液を出す細胞など5種類の気道上皮細胞の分化に成功した。

これまで病態研究の際には、患者や健常者から気道上皮細胞を採取して利用していたが、大量採取ができないのが課題だった。細胞が大量に作り出せることで、病態解明や新薬の開発が進むほか、将来的にはiPS細胞から作った気道上皮細胞を利用し、肺臓器の再生にもつながる可能性があるという。

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この記事の中で意味不明な箇所がある。指摘しておく。

>繊毛などになる5種類の「気道上皮細胞」

繊毛は繊毛細胞がその表面に有する構造体の一種なので、「繊毛となる細胞」という表現はおかしい。「繊毛を有する細胞」と書くべきだろうと思う。

これ以下の内容に特に問題はないようだが、以下に掲げる三嶋理晃教授の研究サマリーを読むと、5種類の「気道上皮細胞」ではなく、「繊毛上皮細胞、クラブ細胞、基底細胞、粘液産生細胞、神経内分泌細胞といったさまざまな気道上皮細胞の成分を含む嚢胞構造」が正しい表現であることが分かる。

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概要

肺の気管を覆う気道上皮細胞は粘液を分泌し繊毛の運動によって流れを作り出すこと
(粘液繊毛クリアランス)によって、異物や病原体を除去するのに重要な役割を果たしています。これまでヒトの細胞でこの研究を進めるためには患者さんやボランティアの方から同意を得て取得した気道上皮細胞が用いられてきましたが、気道繊毛上皮細胞を制限なく入手することは難しかったため、解決手段の一つとしてヒトiPS 細胞を気道上皮細胞に分化させる技術の開発が期待されてきました。
今回、三嶋理晃教授の研究グループの後藤慎平特定助教(京都大学医学部附属病院 呼吸器内科)、小西聡史大学院生(京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学講座)らは、ヒトiPS 細胞を段階的に分化させ、表面蛋白質Carboxypeptidase M (CPM)を用いて肺の元となる細胞(腹側前方前腸細胞)を単離し、サイトカインや化合物などを加えながら様々な条件で三次元培養を試みました。その結果、昨年報告した肺胞上皮細胞の分化誘導法とは異なり、繊毛上皮細胞、クラブ細胞、基底細胞、粘液産生細胞、神経内分泌細胞といったさまざまな気道上皮細胞の成分を含む嚢胞構造を作る方法を開発しました。また、様々な発生のプロセスで分化に重要とされるNotch シグナルを抑制すると、気道繊毛上皮細胞や神経内分泌細胞が効率よく誘導されることが分かりました。さらにヒトiPS 細胞から作られた気道繊毛上皮細胞の機能を解析するため、分化誘導した繊毛上皮細胞をシート状に培養する方法を開発し、大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科の月田早智子教授、立石和博大学院生との共同研究により、ヒトiPS 細胞から作られた気道繊毛上皮細胞が、体の中と同じように規則正しく振動し、粘液を動かす機能を持つことを示しました。呼吸器内科の診療ではCOPD、気管支喘息、気管支拡張症など、気道の粘液繊毛クリアランスの異常をもたらす疾患は非常に多く、一方で、嚢胞性線維症や原発性繊毛機能不全症など粘液繊毛クリアランスに直接関係する遺伝子の異常により、若年時から感染症を繰り返す重篤な疾患も見過ごせません。ヒトiPS 細胞から気道上皮細胞に分化させる技術が確立したことで、これらの病態解明や創薬の研究が大きく前進することが期待されます。

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さて、この記事の元となった論文がこれだ。

Directed Induction of Functional Multi-ciliated Cells in Proximal Airway Epithelial Spheroids from Human Pluripotent Stem Cells

略文字が多数登場するので、うっとうしさがあるが、慣れてくればさほど気にならない。

ポイントは、Highlightsにあるように、

・CPM(carboxypeptidase M(カルボキシペプタイドM、分化抗原マーカーと思われる)は、ヒト近位気道上皮の発生を研究する上で有用なマーカーである。
・3次元培養は、in vitroの系において、ヒト気道上皮細胞を誘導するには大変有用な手段である。
・DAPT( N-[N-(3, 5-difluorophenacetyl)-l-alanyl]-S-phenylglycine t-butyl ester)は、気道繊毛細胞(multi-ciliated cells)や肺神経内分泌細胞(pulmonary neuroendocrine cells)の誘導を促進する。
・誘導された気道繊毛細胞は機能的な可動性繊毛を有する。

•CPM is a useful marker for generating human proximal airway epithelium
•Three-dimensional culture is useful for inducing human airway epithelium in vitro
•DAPT promotes the induction of multi-ciliated and pulmonary neuroendocrine cells
•Induced multi-ciliated airway cells have functionally motile cilia

・・以下省略

 

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