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■院長の役に立つ話  〜2型糖尿病に関する最近の知見〜 一覧へ戻る
糖尿病はいまやこの国の国民病となってしまったようだ。よって、いずれ自分も患うかもしれないこの病気に対して、あらかじめ理解を深めておく必要がある。
一連の生化学反応は、実際に我々の体の中で起きている生命現象。食物中のブドウ糖が体内に吸収されるメカニズムや血中グルコース濃度の制御機構を十分に理解しておきたい。
 これらの知見が現在の糖尿病治療にどう生かされているか。後で、糖尿病治療の最前線に触れておこう。

The multiple Mechanisms of Type 2 Diabetes.

Ongoing research suggests that careful attention to all of the mechanisms involved in glucose homeostasis may lead to new insights and novel interventions in the treatment of type 2 diabetes.

Blood glucose levels are affected by a number of key organs that regulate the entry and removal of glucose from the blood: the intestine, liver, pancreas, skeletal muscle, brain, adipose tissue, and the kidneys.

After a meal, the intestine absorbs glucose by the sodium-glucose transporter 1, known as SGLT1 and delivers it to the blood.

In response to glucose absorption, the intestine secretes two major incretin hormones, glucagon like peptide GLP1, and glucose dependent insulinotropic polypeptide GIP which together with increased levels of glucose augment the secretion of insulin from the beta cells of the pancreas.

GLP1 also suppresses the secretion of glucagon from the alpha cells of the pancreas.

The glucoregulatory effects of incretins are limited by the activity of the dipeptidyl peptidase 4, DPP-4 enzyme, which rapidly degrades the GIP and GLP1 incretin hormones.

In skeletal muscle and adipose tissue, insulin stimulates glucose uptake into the cells.

In the fasting state, the liver helps maintain normal glucose levels by hepatic gluconeogenesis and glycogenolysis which result in the release of glucose into the blood.

Insulin also suppresses hepatic gluconeogenesis while increasing peripheral glucose uptake which prevents abnormal rise in postprandial blood glucose levels.

Renal glucose reabsorptioin mediated by the sodium-glucose transporter 2 or SGLT2 is the primary mechanism by which filtered glucose is actively returned to the blood and retained in the body.

SGLT2 actively reabsorbs about 90 % of all filtered glucose in the S1 segment of the proximal tubule.

SGLT2 is believed to be expressed almost exclusively in the kidneys.

SGLT1 reabsorbs the remaining filtered glucose.

Dysregulation of glucose balance resulting in hyperglycemia is a hallmark of diabetes.

Increased visceral adiposity in particular has been shown to contribute to the development of insulin resistance in the liver, skeletal muscle, and adipose tissue.

Insulin resistance in these tissues results in a compensatory increase in the amount of insulin secreted by the beta cells of the pancreas.

Overtime, the beta cells may fail to produce enough insulin to meet the demand created by insulin resistance.

This failure may also be worsened by glucotoxicity, the deleterious effect of elevated glucose on beta cell function and its contribution to insulin resistance.

Inability of the pancreas to secrete adequate amounts of insulin results in hyperglycemia which contributes to the impairment, an eventual failure of the endocrine system’s ability to lower blood glucose.

In type 2 diabetes, the normal incretin response is lost or substantially impaired.

However, the DPP-4 enzyme performs its usual function despite fewer incretins to degrade.

All of these hormonal effects lead to reduced insulin secretion, reduced glucose uptake, increased glucagon secretion, and excessive hepatic glucose production.

In the diabetic state, the kidneys continue to reabsorb virtually all filtered glucose despite the presence of hyperglycemia.

Complete reabsorption of filtered glucose persists until plasma glucose concentrations exceed 200 milligrams per deciliter.

At which point, glucose load in the filtrate overwhelms the capacity of the transporters, the maximum transport rates attainable by SGLT2 and SGLT1, first allowing glucose to be cleared in the urine.

In type 2 diabetes, hyperglycemia is a net result of the pancreatic hormone imbalance, absorption of dietary glucose from the intestine, overproduction of glucose by the liver, diminished incretin effects, reduced uptake of glucose by peripheral tissues and reabsorption of glucose by the kidney.

Overtime, these facts can contribute to the sustained hyperglycemia that leads to glucotoxicity which worsens insulin resistance and contributes to beta cell dysfunction.

In this way, hyperglycemia appears to perpetuate a vicious cycle of deleterious effects that exacerbate type 2 diabetes.

dictated by Miss Mai Kawamura, an excellent translater and a member of my medical office

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   分かりやすい解説  
糖質の消化吸収に関する基本  
食べ物(デンプンなどの多糖類)を食べる.  
膵臓の消化酵素アミラーゼが小腸内に分泌される.  
アミラーゼによりデンプンがブドウ糖、二糖類、オリゴ糖に分解される.

 

→  小腸粘膜上皮から消化酵素 マルターゼ、ラクターゼ、サッカラーゼが分泌される.  
これらの消化酵素により二糖類およびオリゴ糖は単糖類つまりブドウ糖(グルコース)に分解される.  
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  膜タンパクに関する基礎知識  
 1 細胞膜は脂質2重層から成っている(→右). 基礎構造は極めてシンプルだ.  
 2  この膜という海に、膜タンパクが漂っているわけだ(→右). ちなみに図の上は細胞外(extracellular)、下が細胞内(cytoplasm).  
 3 SGLT1という膜タンパク(図の左が腸管、中央が細胞内、右が血管). 要するに、 ナトリウムの濃度勾配を利用して、細胞内にグルコースを取り組むためのポンプ. 単純だ.  
   インクレチンおよびDPP4と血糖  
 1 インクレチンというホルモン-GLP1とGIP、小腸が血管内に分泌. いずれも膵臓からのインスリン分泌を促し、血糖を下げる作用をもつ.  
 2 インクレチンとDPP4の関係
インクレチンの作用が持続すれば血糖値は低い値を保つことができる. これを邪魔するのがDPP4. よって、このDPP4を抑制すれば血糖値は上がらないという仕組みだ. これがDPP4阻害薬という糖尿病治療薬.
 
  代表的な糖尿病内服薬(当院で使用中の薬剤だ)  
  DPP4阻害薬: ジャヌビア、トラゼンタ、エクア、テネリア、オングリザ、スイニー、グラクティブ、ネシーナ、  
  インスリン抵抗性改善薬: アクトス、メトグルコ  
 3 インスリン分泌促進薬: アマリール、オイグルコン、ダオニール、グリミクロン、シュアポスト、(グルベス)
、ファスティック
 
  糖吸収阻害薬: ベイスン、セイブル、(グルベス)  

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成人(2型)糖尿病発症のメカニズム

最近の医学研究は、血糖値の恒常性に関与するメカニズムを詳細に検討することによって、糖尿病を治療する上で必要とされる新知識や進歩へとつながる可能性を示唆している。

血中のブドウ糖濃度(血糖値)は、血液中のブドウ糖を取り込んだり、除いたりすることのできる臓器-腸管、肝臓、膵臓、骨格筋、脳、脂肪組織、腎臓-によって影響される。

食物中のブドウ糖は、腸管細胞膜表面にあるナトリウムグルコーストランスポーター1(SGLT1)という膜タンパクによって吸収され、血液中へと取り込まれる。

ブドウ糖の吸収に呼応して、2つの主要なインクレチンホルモン、グルカゴン様ペプチド1(GLP1)とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)が腸管から分泌される。

これらのホルモンは、血糖値の上昇に反応して、膵臓ベータ細胞からのインスリン分泌を増強する。

また、GLP1は膵臓アルファ細胞からのグルカゴン分泌を抑制する。

インクレチンの血糖抑制効果は、ジペプチジルペプチダーゼペプチダーゼ4(DPP4)によって制限される。なぜなら、インクレチンホルモンであるGIPとGLP1は、いずれもこの酵素によって急速に分解されるからだ。

骨格筋及び脂肪組織では、インスリン刺激によりブドウ糖は細胞内に取り込まれる。

空腹時、肝臓は糖新生や糖分解(血中への糖放出)を行ない、正常血糖値を維持するのに役立っている。

インスリンは肝においては糖新生を抑制し、末梢組織においてはブドウ糖の取り込みを増加させるため、食後の急激な血糖値の上昇は起きない。

腎臓による糖再吸収は、腎細胞膜表面にあるナトリウムグルコーストランスポーター2(SGLT2)膜タンパクによって仲介される。この機構により、濾過されたブドウ糖は能動的に血液中へと戻されて体内に留まる。

SGLT2の働きにより、濾過されたブドウ糖の約90%は、近位尿細管S1セグメントから能動的に再吸入される。

SGLT2膜タンパクは、腎臓において豊富に発現されていると考えられている。SGLT1膜タンパクにより、残りの濾過されたブドウ糖が再吸収される。

高血糖に起因する血中ブドウ糖濃度(血糖値)のコントロール不良が糖尿病の本質である。

特に、近年になり、内脂肪の増加が肝臓、骨格筋や脂肪組織におけるインスリン抵抗性の進展に寄与することが明らかとなってきた。

これらの組織におけるインスリン抵抗性は、結果として、膵臓のベータ細胞から分泌されるインスリンの量を増やす。

時間経過とともに、ベータ細胞はインスリン抵抗によって生じた必要量を埋めるに足るインスリンを産生できなくなる。

インスリン産生能の低下は糖毒性によりさらに悪化し、ベータ細胞の機能低下およびインスリン抵抗性の増悪という悪循環を来たす。

膵臓が十分なインスリンを分泌できなくなると、高血糖が持続し、血糖値を低下させる内分泌系が障害され、ついには破綻する。

成人(2型)糖尿病では、正常のインクレチン反応は失われているか、著しく損なわれている。

にもかかわらず、DPP-4酵素は通常通り働き、インクレチン量をさらに低下させてしまう。

このようなホルモン効果はすべて、インスリン分泌の低下、グルカゴンの細胞内取り込み量の減少、グルカゴン分泌の増加、そして肝臓による糖の過剰新生を引き起こす。

糖尿病では、高血糖があるにもかかわらず、濾過されたブドウ糖はすべて再吸収される。

濾過されたブドウ糖の完全再吸収により、血糖値は200mg/dL以上を持続するようになる。

この時点で、腎濾過機能における糖負荷はトランスポーター膜タンパクの機能、すなわちグルコーストランスポーターSGLT2およびSGLT1の最大輸送能を上回り、ついには尿中にブドウ糖が検出されるようになる。

成人(2型)糖尿病では、膵臓のホルモン不均衡、食物中のブドウ糖の腸管からの吸収、肝臓によるブドウ糖の過剰産生、インクレチン効果の減少、末梢組織のブドウ糖取り込みの低下、腎臓によるブドウ糖再吸収などの相互作用によって、血糖値が変動する。

また、これらの因子は糖毒性を引き起こす高血糖を持続させ、インスリン抵抗性を悪化させ、ベータ細胞の機能不全を引き起こす。

このように、高血糖は、成人糖尿病を増悪化させるこれらの因子により悪循環に陥っていく。